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「データ主権」政策を急展開する中国

=法令・規制を強化、対応迫られる内外企業=

2021年10月11日

内外政治経済

研究員
片桐 敬太

 昨今、新型コロナウイルスの影響に伴うテレワークの急速な浸透や、顧客情報などビッグデータを活用したビジネスの拡大に伴い、デジタルデータの流通量が急増している。今後も次世代通信規格(5G)やクルマの自動運転の普及などにより、流通量が加速度的に拡大するのは必至だ。

固定系ブロードバンド契約者の総ダウンロードトラフィック(国内)
図表
(出所)総務省「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算(2021年5月分)」を基に
リコー経済社会研究所

 20世紀が石油の時代と言われたのに対し、21世紀はデータの時代になる。このため、自国で発生するビッグデータを自国内に囲い込み、国外への流出を阻止する「データ主権」が脚光を浴びている。経済安全保障上のエコノミック・ステイトクラフト(ES=経済的手段による国益追求)としても、重要性は高まる一方だ。だから、データ主権をめぐる各国の覇権競争が今後激化していくのは間違いない。

越境データ流出量、中国が世界1位

 国際電気通信連合(ITU)によると、国境を越えて流通するデータ量では中国が断然トップであり、2位の米国の2倍に近い。そこで中国はデータ主権の観点から、自国データの海外流出を防ぐために規制を厳格化している。

 例えば、中国は2017年に施行した「サイバーセキュリティ法」により、国内外の企業が中国内で収集・生成した個人情報・重要データを同国内で保存するよう義務付けた。また、企業がデータを国外へ移転する際、中国当局は機密保護の観点から当該企業に安全評価を求める。その評価の結果次第では、企業は当局へデータ提出を命じられる可能性がある。

 また2021年9月1日、中国は「データセキュリティ法」を施行。それに伴い、国内外の企業による国外への違法なデータ持ち出しなどには、最高1000万元(約1.7億円)の罰金が科されるほか、営業停止や許可取り消しもあり得る。国内で生じるすべてのデータが対象となり、対象分野は工業から交通、通信まで多岐にわたる。地球温暖化対策として電気自動車(EV)などの開発競争が激化する中、データ管理を徹底的に強化する構えだ。

 さらに2021年11月1日には、中国は初の「個人情報保護法」も施行する予定。同法では国内外の企業が個人情報を収集・取り扱う条件として、①個人情報の保護②本人の同意と必要最小限の情報取り扱いに留めること―などを義務付ける。違反した企業には罰金だけでなく、営業停止を当局に命じられるケースも指摘される。今後、この3法が中国のデータ主権を守る柱となる。

中国内でデータセンター設置を急ぐ外資企業

 実際、中国の規制強化は国内外の企業に対し、深刻な影響を及ぼし始めた。2021年7月、中国政府は中国企業の海外上場に関して新たな方針を打ち出した。上場を希望する企業の保有データ越境を厳しく監視するほか、既に海外上場済み企業への監督も強める。

 例えば、中国配車アプリ大手がニューヨーク証券取引所(NYSE)に2021年6月に上場した直後、中国当局は同社に対し、前述のサイバーセキュリティ法に基づいてユーザーによる新規登録の停止を命令した。同社が米規制当局に提出する書類の中に、機密情報や米政府に提供されたくないデータが含まれる可能性があると中国当局が懸念したためだと考えられる。

 中国がデータ主権政策を急展開する一方で、同国内で活動する外資企業は迅速な対応を迫られる。例えば、サイバーセキュリティ法の対策として、米IT大手は2021年5月、貴州省に設置したデータセンターを稼働。売り上げ面で同社の対中依存度が高まっているため、当局の規制に従う姿勢を速やかに示したとみられる。

 また自動車業界でも、中国内にデータセンターを設置する動きが出始めた。ある企業は、巨大市場で販売した車両から収集したデータを、すべて同国内に保存する。当局の規制を順守する一方で、収集データの他国への転用を断念するという苦渋の決断と言えそうだ。中国で事業展開を行う外資企業は、データ主権に関連する法令・規制に細心の注意を求められている。

写真中国内で外資企業の設置が相次ぐデータセンター(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

片桐 敬太

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